なんでもないこと、腹が鳴ること。『笑顔の砦』リクリエーション、始まります。

『笑顔の砦』関西版が11/24から城崎で、11/29からは大阪で幕を開けます。初演が2007年@下北沢なので、実に11年ぶりのリクリエーションです。



この作品は2008年に岸田戯曲賞の最終候補にノミネートされた、タニノの<物語系>作品の原点とも言える作品です。リアルな舞台美術で展開される会話劇。小さな漁港町の、貧しいけれど豊かな生活。色々なレベルでそこにいる人間たちの匂いが立ち込める。そんな感覚が味わえる舞台です。


今回のリクリエーションにあたって、脚本はほぼ完全に書き直されています。大きな構成や、作品の根っこにあるエッセンスは変わっていませんが、舞台は関西に移り、登場人物やその関係性にも無数の変化が見られます。それは11年のあいだに起きた世の中やタニノ自身の変化、あるいは関西の俳優陣やスタッフとの交流によって起きた化学反応によるものかもしれません。


脚本の冒頭にこう記されています。

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なんでもない
ことの美しさと
豊かさ

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この言葉は今作の通奏低音になっています。描かれるのは、木造アパートに住まう漁師たちと、その隣室にやって来たある家族の"なんでもない”ような日々。2007年の初演時の脚本にはなかった言葉かもしれませんが、『笑顔の砦』という作品の、初演から続くテーマとも言えます。


ただ、どうでしょうか。11年の時を経て、この言葉がより切実に感じられるようになってはいないでしょうか。なんでもないこと、というのが、とてつもなく貴重なものになっている、初演時よりもずっと。そんな感覚はないでしょうか。私たちが十分年をとった、ということかもしれませんが笑。


私たちは薄氷の上を生きていて、もしかしたらその氷はどんどん薄くなっているかもしれないけれど、 その上に「笑顔の砦」なら建てることができる。やたらと薄い壁でできた、脆いものであっても−−なんて、まとめたくなりますが、そんなセンチメンタルなことを一瞬思うか思わないかのうちに、きっと腹が鳴るでしょう。美味しい魚に、旨い酒が欲しくなるでしょう。この芝居の人間味は、頭よりも先に体に来るものであるような気がするのです。







遠方から来られる方はどうぞお気をつけて。城崎/大阪で、ご来場を心よりお待ちしています。




(記事内写真撮影:吉田雄一郎)


『笑顔の砦』公演詳細はこちら
http://niwagekidan.org/performance_jp/760