「ペニノ」という名の人物が登場する小説『コーリング 闇からの声』がおもしろい!


柳原慧さんの『コーリング 闇からの声』という小説をご存知でしょうか。


コーリング 闇からの声 (宝島社文庫 C や 1-3)

コーリング 闇からの声 (宝島社文庫 C や 1-3)


2007年の作品なのですが、実は、この作品に「ペニノ」という名前の登場人物が出てくるのです。しかも、作者の柳原さん曰く、名前が面白かったので「庭劇団ペニノ」から取ったとのこと!



ちなみに柳原さんは『パーフェクト・プラン』で第二回「このミステリーがすごい!」を受賞した作家さんです。最近ではレイトン教授のノベライズなどもやられています。


以前twitter上で柳原さんがツイートしていることから気づき、この小説を読んでみたのですが、まず、おもしろい! どんどん引き込まれます。


しかも、そんな展開のなかで、「ペニノ」っていう名前のヤツが重要な役割を果たしてる!!


というわけで、今回はこの小説内の「ペニノ」についてのエントリーです。



「ペニノ」って、なんかかわいいヤツ。


コーリング 闇からの声』のあらすじはこんな感じ。


死者が出た部屋の清掃を行う「特殊清掃員」として働く二人がある日請け負ったのは、風呂場に溶けて死んでいった女性の死体処理という凄惨な現場。
ようやく仕事を終えての帰り際、主人公は女の霊を見てしまい、さらに彼女が自分たちと同じSNSに参加していて、さらには極端な美容整形までしていたことに気づく。
果たして彼女は、自殺なのか他殺なのか? 
彼女からの「コーリング」は何を意味するのか――?


という感じで、ぐいぐい読ませます。


では、この小説に出てくる「ペニノ」ってどんなヤツかというと、




法医学の研究をやっている、スキンヘッドの僧侶。
普段はB系ファッションで、一見いかついヤツのようでいて、幽霊は苦手。




という実に愛らしいキャラクターです。


しかも元精神科医で、ヒップホップが好きで、一見いかついヤツのようでいて、幽霊は苦手なタニノとかなり近い(笑)。


このペニノ、小説内ではこんなふうに描写されています。


しばらくすると、ラッパーのような格好をしたペニノが、別棟から走り出て来た。
禿頭にNew Eraのキャップを被り、4 Ballers Clothingの黒いTシャツに迷彩柄のダボパン。どくろのネックレスまでしている。完璧にB系ファッションだ。


察するに、こんな感じの人でしょうか。



ちなみに主人公の二人はこの「ペニノ」についてこんな会話をします。

「誰よ、あれ」
「ペニノ」
「それはあだ名でしょ。本名は?」
「村上。下は忘れた」
「ペニノってどういう意味なの」
「さあなあ。たしかエッチな意味があったと思うんだけど、よく覚えてない」
「いいかげんだなあ」


これって、ペニノの劇を観に来てれた人がしてる会話のようにも聞こえちゃいます。

「誰よ、あれ」
「ペニノ」
「それは劇団名でしょ。名前は?」
「タニノ。下は忘れた」
「ペニノってどういう意味なの」
「さあなあ。たしかエッチな意味があったと思うんだけど、よく覚えてない」
「いいかげんだなあ」


こういう会話、実際よくあるんじゃないかしら・・・。皆さんしたことないですかね?


ちなみに他にも、


ペニノは目を丸くする。
ペニノはうなだれて、目の前の赤黒い肉をじっと眺めた。
ペニノは泣きそうな顔で言った。
ペニノは茶化すように言う。


などなど、とにかくペニノが出てくるたんびに、にやけてしまうのです。


さて、このペニノの「法医学」の能力が、物語の鍵をにぎるのですが――、それは読んでからのお楽しみということで!



「ペニノ」だけでなくペニノに通じる部分


この『コーリング 闇からの声』という小説なのですが「ペニノ」という名前の登場人物が出てくる以外にもペニノの作品に通じるかも、という部分があります。


この小説、「特殊清掃」「美容整形」「幽霊」「SNS」といった具合に、肉体がぐちゃぐちゃになるイメージが強烈にインプットされる一方で、心の部分は、本当のところ誰なのかわからないSNSのアカウントや幽霊といったかたちで、浮遊するイメージとして描かれます。


この心の部分は小説のなかではユング心理学にもとづく、「ペルソナとシャドウ」というかたちで表現されます。


「ペルソナ」は仮面のような、外向けのキャラクター。建前的な顔。「シャドウ」はそれをつくるうえで心の奥に抑圧した影の部分です。


肉体がぐちゃぐちゃになって、溶けてなくなってしまい、SNSのアカウントのような、浮遊する「ペルソナ」だけが残された状況で、主人公が目にした「幽霊=シャドウ」からの「コーリング」が何を意味するのかを探っていく。


この小説は、そういう筋立てになっているのですね。


実際、小説内の登場人物がユング心理学の本を読んでいて、章立ても「第一章 ペルソナ」、「第二章 シャドウ」というふうになっています。


この、ちょっと過剰な肉体感覚と、精神分析的な作品構造。


これって、『黒いOL』や『誰も知らない貴方の部屋』などのはこぶね作品など、かなりペニノ作品にも通じるところがあると思うのです。


だから、「ペニノ」という名前の人物が出てくるのは偶然でもなければただ名前が面白かったからというわけでもないのだなあ、としみじみ思うのでした。


というわけで、ペニノのことを知っていたら二倍楽しめる『コーリング 闇からの声』、オススメですぜ!
(吉)