クドカン『11人もいる!』はマヂで日本を元気にする作品だと思うぜよ・・・!!
■まずキャスティングのコンセプトがヤバい!
宮藤官九郎さん脚本のドラマ『11人もいる!』がとても面白いです。
お話の展開とか人物のキャラ作りとかはもちろんなのですが、最初にうわーおもしろいなと思ったのは「キャスティングのコンセプト」です。
って言っても、そのコンセプトはどこかに書いてあるわけではなく、私が勝手に想像しただけなんですが、そのコンセプトっていうのは、
「みんながこの人って、実際はこういう人なんだろうなー、と思ってる通りにキャスティングする」
というものです。
たぶん、キャスティングについての打ち合わせの最中にこういう話が出てきたんじゃないか、中央にペットボトルのお茶とお菓子が置いてある部屋のなかでそんな話で盛り上がったんじゃないか、ってつい思っちゃうのです。
はてさて、どういうことでしょか。
■「実際のイメージ」と「役柄」の関係がちょう楽しい!
この『11人もいる!』は、大家族もののドラマなのですが、たとえば、パパの田辺誠一さん。
田辺さんといえば、もともとはモデル出身の繊細で中性的なかっこよさのある役者さん、というイメージがあったんじゃないでしょうか。
ただ、田辺さんがtwitterを始めてから、そのイメージは結構がらっと変わりました。
こんなふうに(【画伯】俳優・田辺誠一「イラストの犬種教えて!」)まとめられているように、みんな「本当は、天然のセンスがある人だったのかー!」と思ったはず。
で、今回の作品では、見事にそんな「天然のセンス」が炸裂する貧乏大家族のパパ役(職業は隠れた天才カメラマン)を演じてるのですね。だから、見てると「田辺誠一、結構素じゃないのかこれwww」って思っちゃうのです。
あるいは、亡くなったママ役を演じる広末涼子さん。
「ヒロスエ」といえば、ポケベルのCMでブレークして以来の清純派の国民的アイドル、というイメージがあったでしょうか。
でも、実は「出来ちゃった婚」を繰り返した奔放な恋多き女だった、と。みんな「うわー、ヒロスエ、そうだったのかー!」って思ったはずです。
そして、この『11人もいる!』で演じるのは、「恋愛体質」で「酒好き」の「元ストリッパー」で「大家族のママ」。もう、「実際はこうなんだろうなー」という気持ちに見事に応えるキャスティングです。
さらには、長男を演じる神木隆之介さん。
中性的すぎて女の子みたいな少年だった、神木さん。「このコ、ゲイなんだろか・・・?」なんて思った人がたくさんいたはず。
で、『11人もいる!』の第一話から、神木さん演じる長男がいきなり「ゲイバー」で働いたりするんですね。「うおー、いいのかそれー!」って見てる方は思っちゃうのです。(ちなみに、その後長男は、バイト先のコとできちゃったりします)
かわいらしい「こども店長」で一気に人気者にになった清史郎くんですが、「子役で売れちゃって、実は生意気なんじゃないの?」と思ってる人も多いはず。
ドラマのなかでは、そういうみんなの気持ちをうまーく利用して、「ヒロスエのおっぱいを揉みたがる、生意気な末っ子」というキャスティングをされているのですね。だから、見ている方は「やっぱそうかー! こども店長だって、揉みたいよなー! くー!」とか興奮しちゃうわけですね。
他にも、光浦靖子さんがまんま地味で器用な新しいママを演じたり、湘南乃風のRED RICEさんがモロにヤンキーを演じたり。
とにかく、実際のイメージと役柄の関係が、見ていてものすごく面白いのです。
(って、クドカンのドラマって、わりとそういうとこ多いんでしたっけ!?)
■キャスティングのコンセプトとドラマのテーマ
では、なんでこんなキャスティングのコンセプトでやったんでしょ、って考えてみると、この、「実際この役者さんって、こんな感じだよね」っていうのが、「実際家族って、こんな感じだよね」っていうドラマのテーマとパラレルになってるんですね。
いま、さらっと「実際家族って、こんな感じだよね」っていうのがドラマのテーマだと言い切りましたが、えっと、言い切ります。「実際家族って、こんな感じだよね〜」というのがテーマです。
ドラマ内に挿入される相田みつをパロディ風の「家族なんです」の歌をとってもそうです。
助けあったり
励まし合ったり
しなくていい
それが・・・・・
家族なんです
つい、「たしかに、助け合ったり、励まし合ったり、しないよね〜w」と思ってまう。歌だから余計に歌ってしまう。実際、上の動画も、視聴者が真似したものですw
それから、この「実際家族って、こんな感じだよね〜」というテーマはドラマのメタドラマ的構造にも表れています。
この『11人もいる!』がいわゆる「大家族モノ」だって書きましたが、ドラマのなかでもみんなで「ダイナマイトパパ」っていう「大家族モノ」の番組を見てるんですね。
これ、「番組内番組」なんですが、もろに同じテレビ朝日でやっている「痛快!ビッグダディ」のパロディになっているのです。
皆川猿時さん演じるダイナマイトパパが撮影外だとすごくイヤな奴だったりして、「ドキュメンタリーチックな感動大家族もの」である「ビッグダディ」の裏側を露骨に描いていて、「やっぱり、家族がそんなわけないよな〜」って思っちゃう仕掛けになっています。
上の歌みたいに、「ビッグダディ」とちがって、「助け合ったり励まし合ったりしなくていい、それが家族なんです」、ということに本当に共感しちゃうわけです。*1
■こんな家族なら日本はマヂ元気。
では、そもそもなんで「家族もの」なのでしょか。
最近、鈴木謙介さんの「SQ “かかわり”の知能指数」を読んで、そこに書いてあったのですが、311の震災以後「家族旅行のパッケージ」がぐっと売れているそうなんですね。
- 作者: 鈴木謙介
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2011/11/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 301回
- この商品を含むブログ (20件) を見る
ようは、「まずは家族の絆を大事にしよう」と考えている人が増えているそうなんです。
そういう状況の中でこの『11人もいる!』を捉えると、この作品は「絆」という言葉から想像されやすい「助け合う」「励まし合う」といった家族のあり方を巧みに牽制して、みんなが「こうだよね」って何となく思ってる「理想の家族像」を楽しく示している作品、と言えるんじゃないでしょうか。
貧乏大家族モノが「経済の土台」としての共同体の家族の役割を強調するのに対して、この『11人もいる!』の家族は、「ふっと落ち着ける場所」になっている。「家族っていいよね、でも肩肘はらずにゆるくいこうよ」、そんなメッセージになっている。
だから、ものすごく飛躍してものすごく力んで言うと、『11人もいる!』は「マヂで日本を元気にする作品」なんじゃないかと、思うのっ、ですっ! キリッ!!
えっとえっと、
それから『11人もいる!』っていう萩尾望都さんの名作をパロったタイトルも、こういうテーマをよく表していると思います。
毎回ドラマのなかで「家族会議」が開かれるのですが、おじさんだったり先生だったり家族以外の人間が平気で参加するので、家族の人数である「10人」よりもいつも多くなるんですね。
そういう家族としての境界のゆるさ、オープンさも、この311以降の日本での「楽しいサバイバル」のあり方を超明快に示している。そんな気がします。すっごくします。
はい、ようするに、
やっぱクドカンすげーよ! 毎回楽しみでしかたないよ! ていうか明日だよ!
というわけで、明日は第8話。*2 マヂでおすすめですぜ!
(吉)
*1:ちなみに、yahoo!知恵袋にはこんな質問もあがっています。「『11人もいる!』で出てくるダイナマイトパパあれってビッグダディをパロってますよね?」
*2:しまった! 焦った! 金曜日だから明後日でした!